第4話 ワールドオリエンテーション イエナプランスクールは生きるために学ぶ学校(リーン・ファンデンヒューヴェル)

 学ばなければならないことは本当にたくさんある。もちろん、算数も国語も読めるようになることも重要だ。生物や、歴史や、技術などとも同じくらいに。

 そして他の人と一緒にうまく生きていくことを学ぶのは、少なくとも、こうしたこととと同じくらい重要だ。他の人と共に生きていく上で必要なスキルは、他の子と一緒に、遊んだり、仕事をしたり、話したり、何かを祝ったりしながら学ぶものなんだ。また、そこでは、誰もが、自分なりの歩みで進むゆとりが認められる。時には、転んだり、また、立ち上がったりするかもしれないが、それも当然のこと。ダメなことなんかじゃ全然ない。ファミリーグループの中にいるという安心感が、一緒に働くことや、、自分で計画を立てること、自分から進んで何かに取り組むこと、、また、物事の仕組みについて説明することなどを学ぶチャンスを与えてくれる。そして、プレゼンテーションをすること、つまり、自分が何を学んだか、自分はどんなことを大切だと思っているかと言ったことを、他の人に伝えることも学ぶ。

 でも、そういうことって、現場では、いったいどんなふうにすればできるのだろう?

カリキュラム

 カリキュラム、つまり、認知的(学力)分野で子どもたちが学ばなければならない目標については、政府が制定している。この目標は重要だ。一つずつステップを踏みながらこの目標に到達できるように、授業用のメソッド(指導書)が作られている。算数や国語や作文や読みや歴史などにはそういうメソッド(指導書)がある。そして、こういう教材には、たくさんの練習問題も添付されていて、しかも綺麗な体裁にまとめられているもの。また、こういうメソッド(指導書)をより使いやすいものにするために、新しいデジタル教材もどんどん開発されている。

 でも、私たちの学校では、もうかなり何年も前に、教職員チームみんなで、(このカリキュラムに沿って)ほんとうに達成されなければならない目標はどれなのか、教材会社が作っているメソッド(指導書)はどんな考え方で作られているのかをじっくり検討した。

 その結果、私たちが出した結論は、こうしたメソッド(指導書)には、それを魅力的なものに見せるため、幅広い内容をカバーしているように見せかけるために、余計なこと、つまり、なくても良い要らないものがたくさん追加されているというものだった。

 そして、こうしたどうでもよい追加課題で子どもたちに余計な負担をかけるのはやめよう、私たちの仕事をほんとうに必要なものに限定しようと決めた。また、子どもたちに対して、今どの目標に向かって仕事をしているのかを正確に伝えるようにしようと決めた。その結果、子どもたちに与えなければならなかったインストラクション(指導)をずっと減らすことができたし、子どもたちも、なぜ、今、その箇所を学ばなければならないのか、なぜそこでこの仕事をしておかなければならないのか、をよく理解するようになった。

 こうすると、グループの中で「他の仕事」に取り組む時間やゆとりが生まれた。

自分自身の探求

 この「グループでの他の仕事」とは、ワールドオリエンテーションのことだ。子どもたちは、自分が興味関心を持っているテーマに沿って仕事をする。前回の記事で、私は、子どもたちのやる気をどんな風に引き出せば良いか、また、一旦子どもたちがやる気を起こしたら、次には何をすれば良いのか、について書いた。

 私は、ルースという名の先生に、彼女のクラスで行われた「水」というテーマでのワールドオリエンテーションをどう進めたか、彼女の学校の他の先生たちとどんな協力をしたか、話してくれるように頼んでおいた。以下は、彼女からの報告だ。

ルース(「蟹たち」という名のグループのグループリーダー)が示してくれた実践例

準備

 私たちは、コロナ蔓延のために自宅待機となった期間に、私の学年グループの同僚たちと話し合って「水」というテーマのワールドオリエンテーションの準備をした。授業で使うアイデア、アクティビティ、小実験、使用する動画、その他いろいろな情報などについてパドレットという名のオンラインプラットフォームを使って意見交換した。

刺激

 ロックダウンの最中も、私はこのテーマに早く取り組みたくてうずうずしていた。ファミリーグループワーク(ワールドオリエンテーション)は私たちの教育、そして、私たちのグループの中での活動の中でも特に重要なものだ。そこで、私は、同僚たちに、自宅待機期間でも「グレイ·オブ·ザ·デイ」の形式を使って、子どもたちの好奇心を刺激しようと提案した。

(訳者注 *www:greyoftheday:nl参照,
グレイ·オブ·ザ·デイとは、オランダで公演をしたスウェーデンの教師Michel Hermanssonが提唱している短い学びで、短い時間を使って毎日一つずつ子どもたちに与える知識習得のやり方。三つのステップから成り、ステップ1では、子どもが前のめりになってはっと目を向けるような刺激になる一言を言う(例:「私は今日素敵な夢を見たよ」)。ステップ2では8分程度のごく短い時間を使って世界のものや人、出来事などについての知識の要点を伝える(例:「私には夢があった」と言ったマーティン·ルター·キングの話)。ステップ3で、子供たちは、その日に学んだことを家で誰かに伝える。 こうしたやり方を通して、子供たちは、学校で毎日必ず何か一つを学んだと言う実感を持って家に帰る、と言うもの。興味のある人は、You Tube http://youtu.be/IP5WjEBHpil参照。以後、オランダでも専用サイトができ、100のテーマについてのステップ1とステップ2がまとめられたテーマ集などもできている)

 私たちは「人間や動物や自然にとって重要なもので、色々な形に変わるものは何?」
と問いをステップ1の刺激に使った。

 子どもたちは、この問いについて、家でよく考え、私たちにさまざまな面白い、ワクワクする楽しい回答を送ってきた。何人かの子どもたちは、「太陽」に違いないといい、他の子どもたちは「火」だと言った。またさらに他の子どもたちは、「水」のことだと、私たちが考えていたことを見つけた。
 それから子どもたちは、お互いに自分で考えたこと見つけたことを「お知らせ」として交換しあった。何人かの子どもたちは、水のリサイクルについて図を描き、その図を写真に撮って送った。ある子どもたちのグループは、なぜ、初めの問いの答えが「水」だと考えたのか、自分たちで説明をしている様子を動画にして送ってきたのにも驚いた。子どもたちからの回答を受け取った後、私は、さらに、水について、新しい問いをつけて、短いインストラクションの動画を作った。新しい問いというのは、「なぜ、地球のことを青い惑星って呼ぶのかな?」というものだ。

 自宅学習の期間中、私たちは、このテーマを家での課題の中にも取り入れた。自分たちで作った練習問題、スペリングの聞き取り、小実験、探究などだ。私たちは、お互いに、家で、何を学び何を発見したかを共有しあった。ある子は、青い惑星についての動画を作った。実を言うと、私が何より素敵だと思ったのは、子どもたちテーマに取り組んでいただけではなく、お母さんやお父さん、おじいちゃんやおばあちゃん、さらに家に子守のお手伝いに来ている人たちまでが、一緒になって、水というテーマの学びに取り組んでいたことだった。

 しばらくして学校が再開した時、私たちは、もう一度、学校でもこのテーマを取り上げ、さらに新しい刺激を与えた。
 教室に座っている子どもたちのグループの真ん中に、氷の塊を置いた。氷の塊の中には、何かを隠しておいた。子どもたちがきっと興味を持ち、ワクワクするようなものだ。私たちは、氷の塊の中に何が隠れているのか、氷が溶けてそれが取り出せるようになるまでにどれくらいの時間がかかるだろうとお互いに話し合った。

さあ、探究

 まず、このテーマについて、私たちが知っているありとあらゆることと、このテーマについてもっと知りたいと思うことをお互いに伝え合うことから始めた。それから、すでに知っているすべてのことをポスターに書き出し、それに図も加えてみんなで共有した。みんなで一緒に話をしているうちに、このテーマについて、さらにまたいろいろな問いが生まれてきた。

 こういう問いを出す時に、まず初めに、サークルになって座り、隣同士になって座っているもの同士か、近くのもの同士で小さなグループに分かれて考えるようにした。子どもたちは、そこで、一緒に、まだもっと知りたいこと、発見したいこと、調べてみたいことを考える。問いを考える時には、どう言うことに注目したらよいかを、前もって話しておいた。例えば、問いは、4W1H、つまり、だれ、なに、なぜ、どんなふうに、どこでから始まるものだということだ。

小グループでお互いに話し合っておいてから、もう一度みんなで一緒に集まり、出てきた問いを全員で共有した。

 ここで出てきた問いを、私たちは、「問いのドア」に貼り出す。すでに自宅待機期間に少し刺激をしていたし、学校でも、氷の塊を使って始めるなど刺激していたので、問いは比較的容易に集まってきた。テーマに相応しくするために、問いを、水滴の形にした紙の上に書き出していった。それから、それらの問いを、お互いに関係がありそうなものを集めながらカテゴリーに分けていった。「ねえ、この問いは、家にある水についてのことだね。それなら、こっちの問いと一緒にしてできるんじゃない?みんなはどう思う?」という具合に。私は、できる限り子どもたちの会話に加わるようにした。私は、問いが、私の選択にならないように、慎重に子供達の考えを進めながら、その会話の流れに沿って、問いが生まれてくるようにした。

 グループリーダーである私は、例えば、リットルとかキログラムについて、このテーマの探究の中でうまく教えることを目指していたので、氷が溶ける様子を子どもたちが見ているときに、教室の中に秤を掛けておいたり、容量カップを置いておいたりした。こうして、(氷の塊を見せて、それが溶ける様子を見るという)オープニングの時点で、もうすでに「重さや量を測ること」という項目を取り扱うことができた。子どもたちは氷や水の重さを測ることを知り、容器を使って容量を測ることも学んだ。

 テーマ学習の途中でも、子どもたちの好奇心を刺激し続けることは大事だ。ある日、雪が降ったので、私たちは、外で大きな氷の塊を見つけて教室に持ってきた。誰が一番大きな氷を見つけて持ってくるか、競争になった。それから、この塊が溶けてしまうまでにどれくらいの時間がかかるかについて、テーブルグループに分かれて考えさせた。そうしているうちに、各テーブルでは、みんなで考えて一つの答えを決めなければならないので、会話が盛り上がり、議論が生まれた。それから、私たちは、タイマーをおき、氷がすっかり溶けて無くなるまで待っていた。

 午前中の中休みでフルーツを食べながらサークル対話をしている時に、私は、このテーマに即した話をみんなに聞かせることにした。それは、水の力や、水に関する仕事をしたヒーローについての昔の話などだった。午後には、みんなで一緒に仕事をし、みんなで一緒に探究した。午後の時間が始まるときに、何か「スーツケースのようなもの」を取り出し、そこに、仕事の成果やアイデアを貯めていくようにした。短い時間を使って、私たちは、なんのテーマで仕事をしているのかを確認し、今日はそのテーマの中でもどの部分に取り組むのか、などを話した。話の終わりに、お互いにアイデアを提供したり、誰かに褒め言葉を言ったり、ヒントを与えたりする時間を設けた。

このテーマ学習の初めに、私たちは、問いを集め、その問いに対して、どんな方法を使ったら、答えを見つけることができるかを考えておいた。答えを見つけるには、本を読んだり、動画を見たり、両親に話を聞いたり、誰か専門家に教えてもらいにいったり、それから、実験をしてみるといったこともできる。問いの中には、すぐに答えが見つかるものもある。つまり、調べればわかる問いだ。他の問いは、本当に探求しなければならない。こういう探求の時には、子どもたちは協働で取り組み、発表も、みんなで一緒に準備をする。

 ワールドオリエンテーション(ファミリーグループワークとも呼ぶ)では、初めに自分たちが立てた問いを使って作業を始めるが、そのうち、さらに新しい問いが生まれてくるし、子どもたちは、他の子どもたちから刺激を受けてさらに深く考えるようになる。

「海の水と、水道の水はどうして違って見えるのだろう?」

 ファミリーグループのもう一つの良さは、どの子もそこで自分の役割を持っているということだ。それによって、どの子も、自分のクオリティ(得意)や才能に気づき、その子のそう言う得意な部分や才能が他の子から必要とされる時に、他の子どもがそれを承認し、知っている。私のグループの子どもたちは、たいてい皆、何かを実際にしたり、何かを作ったりすることが大好きだ。ある子はよくこう言う。「僕たちのグループでは、毎日工作しているよ」と。子どもたちの中には、読んだり調べたりすることがとても得意な子が何人かいる。こういう子には、例えば、何かの本から文章を読むのが苦手な子のために手伝ってくれるように頼む。協働は、いつも簡単にできるものではない。話し合ったり、調整したり、妥協したりしなければならないし、時には、お互いに対して、アドバイスを与え合うことも学ぶ。


 自由時間の時、仕事に取り組んでいる時、何かのアクティビティをしているときなど、私は、グループの子どもたちが何を発見したいと思っているのか、子どもたちの好奇心はどこにあるのかをできる限り理解できるように、子どもたちの会話に加わる。私の頭の中には私なりに、何かを伝えたい、教えなければならないと言う目標があるし、自分が、どういう目標を持って仕事をしなければならないかも自覚している。だから、時には、全体の流れをその目標のために少し変えざるを得ないことがあることもわかっているが、グループの子どもたちの好奇心に期待していれば自然にその目標に近づくことがあることも知っている。

 また、私は、意図して、教室に、綺麗な本、雨量計、土地の地図、地球儀などをおいておき、このテーマに関して、子どもたちが色々な小さい刺激を得られるようにしている。

 さらに、子どもたちと一緒に、できるだけこのテーマに合うように教室の飾り付けを変えたりもする。ポスターをたくさん貼り出すし、そこに書かれた図や言葉は重要な役割を果たす。私は、子どもたちの経験世界を意識し、子どもたちの好奇心に満ちた見方で世界を見ることができるように努めている。そのためには、私自身が、ファミリーグループリーダーとして、自分でもオープンでリラックスした状態でこの活動に関われるようにしていなければならないし、自分でも好奇心を持ち、時には、ちょっと待ったり、あえて何かをやって見せたり、子どもたちから少し離れて学んでいる様子、プロセスを眺めてみたり、子どもの言葉によく耳を傾けもしなければならない。子どもたちの中には、ファミリーグループワークの際、まだ幾らか私の指導が必要な子どももいる。私は、可能な限り、同僚とともに協力して力を結集し、それぞれの才能や得意なことを発揮して、集団として一緒に成功体験が得られるようにしている。

終わりに

ファミリーグループワークをすることによって、グループの子どもたちの様子は、本当に生き生きとしてくる。そういう時、子どもたちの姿を、普段とは違う目で見るようになる。そうすると、子どもたちそれぞれが、もうすでにできることはなんなのか、どれくらい自立しているか、すでにどれくらいの知識を持っているかなどが見えてくる。このようにすると、子どもたちの自律に任せて、そっと手を緩めることがずっと楽にできるようになる。子どもたちは、自分たちが動機づけられていれば、自分の仕事やプロジェクトに対して、責任を持って関わるものだ。仕事は、彼らのものであり、彼ら自身が作り、彼ら自身が考え、彼ら自身が探究するものだから!(続く)

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