リビア沖から地中海を渡る「死のルート」上で、2 0 1 6 年から「地中海捜索救助船」に8 年間で11回乗務。
内戦や紛争、暴力から逃れるため地中海を渡る人々の「生きる」エネルギーに触れ、船上で「生と死」に向き合いながら救助活動をする小島毬奈さん。
救助船から戻ってきて間もない8 月末、毬奈さんの活動について伺いました。
「地中海捜索救助船」で毬奈さんは何をしていますか?
救助船内では、助産師として主に女性と子どものケアに当たっています。妊婦や生後数日の新生児もたくさんいて、時には大揺れの船内で出産することもあります。また性暴力で妊娠させられたケースが多く、心に深く傷を負った女性たちのケアも大切です。その他、母子の衛生状態の管理など助産師の役割は多岐に渡ります。
どうして危険なルートを承知で地中海を渡ってくるのですか?
人間らしい生活を目指して海を渡るのです。自国が、戦争で仕事も病院も学校もない。政府がまともに機能してない国に希望はないと身一つで渡ってきます。アフリカだけでなく、シリア、バングラデシュ、イラン、アフガニスタンなどから、まずは欧州の玄関口である北アフリカのリビアを目指し、そこから「死のルート」と言われる地中海を渡るのです。
なぜリビアが出発地なのですか? どんな状態で出発するのですか?
リビアはカダフィー政権崩壊後、内戦に陥り国境警備が甘くなり組織化された密航業者が存在するまでになっています。リビアに行けばヨーロッパに渡れると希望を持って来ても、現実は留置所やコンテイナーに閉じ込められたり、食べ物もろくに与えられずに暴力を受けることもあります。過酷な状況の中、それでも密航業者に大金を払うことができた人のみが、ちっちゃなボートに乗せられ生死の保証もないままイタリアを目指します。
リビアからイタリアのシチリア島までは約400km。今にも沈みそうなゴムボートや木製、鉄製の粗末に作られたボートに小さなエンジンがついているだけ。地中海という大海をそんなボートで渡り切れるはずがありません。
現状では、生死の保証もないままイタリアを目指す人が後を絶たないのですね。
このルートでは、いまだに年間2000人ほどが死亡または行方不明となっています。一度に百人以上が乗った船が海に沈むこともあるのです。だから救助船は必要なのですが、自国への移民流入に反対するという政治的背景もあり、救助船は年々逆境にさらされています。救助船の出向を止められたり、言われもない罰金を要求されたり、様々な困難があり今でも戦いは続いています。しかし、「救助を求める人たちを無視しない」という地中海捜索救助船活動の団結力はますます強くなっています。
取材を終えてー
どんな逆境にあっても、船に戻ることを絶対に諦めない! という信念を持ち助産師として「地中海捜索救助船」活動に参加している毬奈さん。この程その集大成として、2冊目の本「船上の助産師」を2024年9月30日に弊社より出版しました。
また、2024年9月8日のテレビ「情熱大陸」でも毬奈さんの活動が紹介され話題となっています。
小島鞠奈さんプロフィール
小島毬奈
1984 年東京都生まれ。
2009 年都内の病院の産婦人科に就職。
2014 年から、助産師として
「移民・難民救助活動」を始める。
『船上の助産師』
(小島毬奈著)