1989年、イギリスの歌手スティングが「アマゾンの森を守ろう」というワールドツアーで来日した際、同行していたアマゾンの先住民(インディオ)のリーダー、ラオーニと出会いました。
それを機に同年5月に熱帯森林保護団体を設立。1992年からは、年に数ヶ月、南さんはインディオとともに生活しながら支援活動を続けています。32年間の活動から学んだことについて伺いました。
ほんの木と南さんとの関わり
南研子さんとほんの木とのつき合いは1990年代に遡ります。南さんの体験を本にしたいと切望し、出版までこぎつけたのが2000年4月22日、アースデーの日でした。面白くておかしくて、驚く話、感動的なエピソードが一杯詰まった『アマゾン、インディオからの伝言』は、朝日新聞の「天声人語」に載って以来、大きな話題となりました。
この本には、南さんのアマゾンの体験と想いをすべて詰め込みました。「先住民のまねができるわけもなく、文明の病は手遅れかも知れない。それでも、若い世代に一つの道しるべを示したかった」と南さんは振り返ります。
インディオの暮らし
インディオたちの日常は、自然の営みに沿って進んでいます。1日3食という決まりもなく、お腹が空いた時に好きなだけ食べます。文字もなければ貨幣もない。
年齢を数えないため、いつまでも若々しい。泣く、笑う、怒るといった感情表現は豊かですが、幸せや不幸、寂しいといったややこしい概念は存在しません。
ある部族の言葉には、過去形も未来形もなく、現在形しかありません。昨日を悔い、明日を憂うということがなく、すべてが『いま』に集約され、密度の濃い時間が流れます。「便利だけれどストレスを抱え空っぽの『いま』をやりすごすだけの日々と、どちらが良い人生なのか」と南さんは言います。
当初は欧米のNGOですら足を踏み入れなかったアマゾンの奥地、インディオの集落へ、南さんは毎年支援に訪れています。死と隣り合わせの体験が続きます。そんな過酷な環境においても、「文明社会で生活している私たちより、文明のないインディオの方が幸せで豊かに見える」と、南さんは、アマゾンに行くたびに感じると語っています。
振り返って私たちの暮らしは
日本では、差別やいじめ、自殺、寝たきりや認知症など多くの問題を私たちはを抱えています。例えば自殺について言えば、小学生から大学生までの500人以上が年間自ら命を絶っている現状があります。まだ社会にも出ず、自身の可能性を何も試してもいないのに。南さんが以前、インディオに「自殺はないの?」と尋ねると、彼らは不思議そうな顔をして「いずれ死ぬのに、なぜその前に自分で命を絶たないといけないのか」という言葉が返ってきたそうです。親が子を、子が親を、殺すこともあると伝えると、「そんなことはあり得ない」と言われたといいます。
寝たきりも認知症も無し。ある日、急に亡くなってそれを受容するだけ。私たちが抱えるような問題が存在しないインディオ。アマゾンの文化と私たちの暮らしとは何と対照的だろうと思います。
次の世代に恥ずかしくない生き方をしたい
昨年7月、約40日間の滞在で、ある親子の姿が南さんの心に深く刻まれたそうです。その父親は、南さんにお土産としてワニの椅子を彫ってくれていました。その傍で、子どもはじっと父親の働いている姿を見つめていました。父親は一言も言わず黙々と彫るだけ。
この光景を見て、「子どもは自分たちの文化というものを残していくために、本能的に父親がやっていることを記憶していくのだな」と南さんは非常に納得したといいます。
南さんの話を聞いて私は、ついつい日常の忙しさにかまけて本来大切にしなければいけないものを置き去りにしていたことに気づいてドキッとしました。次の世代に恥ずかしくない生き方をしたいと強く感じたインタビューでした。(高橋利直)