老後の生活を誰かに任せるのではなく、高齢者が自立し、共に生きるための場所がグループリビングです。
「できるだけ人に頼りたくない」と思っていても、お互い様の気持ちを持ちよれば、人の助けも有難いと感じられるようになります。
東北初のグループリビング『結いのき』
結いのきの始まりは、1994年に山形県米沢市に米沢生活協同組合が立ち上げた地域の高齢者の居場所「たくろう所」でした。2000年に介護保険制度が始まりましたが、制度で対応できない事情を抱えた高齢者は利用できませんでした。その人たちを支えるために、介護保険制度の枠外で、たくろう所を運営し続けました。その経験を基に、2009年グループリビング結いのきの運営が開始されました。
ほんの木との出会いは30年前。当時、米沢生協の常務理事の井上肇さん、松本由美子さんと環境保護や持続可能な地域づくりというテーマで関わりを持ったことがきっかけです。その後、阪神・淡路大震災でのボランティア活動を発端に、東日本大震災、石川県沖地震等でもお互いが連携して被災地支援活動をしてきました。
グループリビングでの約束事
結いのきには、『夕食だけはみんなで一緒に食べましょう』というルールがあります。誰かと食事をする時、心を許せる相手とならより美味しくいただけます。最初は億劫に感じるかもしれませんが、入居者同士で食事をしながら「ああでもない、こうでもない」「暑いね、寒いね」と世間話をしていると、だんだんと仲良くなっていきます。コミュニティを作るためには、食事を一緒にする機会を持つことがとても大切です。また、お互いに健康状態や心情も把握することができます。何かあった時に、その様子に気づいてくれる人がいるのはすごく安心なことです。
管理型ではなく自立型の生活
洗濯機と二つの浴室は共用です。お互いに声をかけ合いながら利用しています。入浴については、1人でお風呂に入れない入居者が半数くらいいるので、訪問ヘルパーが手伝います。そのため、訪問ヘルパーが必要な入居者の入浴を優先的に済ませてから、残りの時間を1人で入浴できる人たちで調整します。「どっちが先に入る」「あまり長湯すると危ない」「転ぶなよ」など、日々のコミュニケーションも大切です。
そのような会話やふれあいの中で、お互いにサポートし合ったり、人と分かり合えたりすることが、管理型ではなく自立型の生活なのです。
「ちょっとだけ」の有償ボランティアへの参加
「誰かから頼りにされている」「自分がコミュニティで必要とされている」という思いは、何歳になっても生きがいとなります。そこで入居している方の中からも、有償ボランティアを募って日常の仕事のサポートをお願いしています。
例えば毎日自分で朝食を作っている70代の入居者の方に、朝食作りの有償ボランティアをお願いするとか、毎日の生活の中での得意を見つけて、ちょっとだけ働いてもらいます。この、「ちょっとだけ」というのが良い加減なのです。
「助けてあげる」と「助けてもらう」は一対
超高齢化が進む中、介護保険制度はますます厳しくなるでしょう。困っているのに支援を受けられない高齢者が増えてくることが予測できます。2000年にたくろう所が介護保険制度の枠で対応できない人の居場所として機能していたように、グループリビングがいまの時代のたくろう所としての役目を担います。
グループリビング運営のための有償ボランティアの仕事も有償ボランティアを希望する人も、まだまだ十分ではありません。1人でも多くの同じ意識を共有できる人と一緒にグループリビングを運営していくことが、いまの課題です。
取材後記/米沢のグループリビング「結いのき」を訪ねてきました。そこには、地域で孤立しやすい高齢者が協同で生活することでお互いに助け合う実践の場がありました。私の暮らす地域でもこの仕組みを作りたいと真剣に考え始めました。(高橋利直)